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令和5年度環境研究総合推進費【5-2023】

実環境試料に基づく
甲状腺ホルモン作用かく乱化学物質の
同定・分級と複合的健康影響の​評価法開発​

背景

甲状腺異常に寄与する内分泌かく乱化学物質

どんな化学物質が?

アゴニスト作用?

アンタゴニスト作用?

環境中のどこに,どの程度?

未知物質は存在する?

健康への影響は?

化学物質の内分泌かく乱作用について,環境省では新たなプログラムとして 2030 年を見据えた取り 組みを EXTEND2022 と称して進めている。その中の新たに注視すべき点として,多くの化学物質から 検討対象物質を抽出するスクリーニング法の開発などを,New Approach Method(ologie)s (NAMs) の 活用が推奨されている。さらに,これまでの個別物質の評価から,作用,構造等が類似する物質の複合 影響評価が加えられている。とりわけ,近年の研究ではエコチル調査にも関連する甲状腺ホルモン (TH) 様作用に関する発達,変体等に及ぼす影響が重要視されている。これらの枠組みは,米国や欧州 における動向を踏まえており,我が国においても積極的に進めるべき課題であると考えられる。 本研究では,TR 活性物質の高度スクリーニング法の開発及び実環境試料中の TR 活性物質の網羅的 探索とそれらの単一/複合健康影響評価を目的として,3 つのサブテーマ「実環境/生体試料の迅速ス クリーニングに向けた TR 模倣分離基材の高度化・分類化」,「酵母アッセイ及び質量分析計による実環 境試料中の TR 活性物質の同定と構造推定」「In vivo 試験による甲状腺ホルモン作用かく乱化学物質の 複合暴露を介した健康影響評価」を設定する。 サブテーマ 1 では,先行研究で得られた TR 模倣基材の高度化を目指し,化学構造から推測される TR アゴニスト活性強度の違いに着目し,構造選択的な複数の TR 模倣基材の合成を行う。特に,ハロ ゲン結合に基づく新規な分子鋳型の設計,作製を進め,化学構造の分類を達成する。さらに,構造が多 様な TR アンタゴニストに関しては,サブテーマ 2 から提供される化学構造から共通項を抽出し,分 子鋳型を作製する。得られた複数の TR 模倣基材を直列あるいは並列に充填した分離カラム/カート リッジを用いることで,実環境試料中に含まれる TR 活性物質を網羅的に捕捉するとともに,その活性 強度や構造相違性の情報を同時に取得できるスクリーニング法開発を目指す。 サブテーマ 2 では,実環境試料中から TR 活性物質を網羅的に探索し,TR 活性の寄与率を算出する とともに,未知物質の生理活性強度と化学構造を明らかにする。国内で得られる環境試料に対して, TR 模倣基材及び汎用の分離基材を用いて,TR 活性の有無と寄与物質を同定する。さらに,未知物質 の場合には,精密質量分析に基づく構造推定を行う。 サブテーマ 3 では,マウスを用いた in vivo 試験から TR 活性候補物質の体内動態を調査する。研究 期間前半は,先行研究における既知物質を用いた網羅的な解析を通じて,末梢臓器及び脳への健康影 響をハイスループットかつ高精度評価可能な系を開発する。さらに,研究期間後半ではサブテーマ 2 で同定された環境試料中の TR 活性寄与物質について,単一及び複合的な化学物質の曝露による健康 影響を評価する。

目的

TR活性物質の同定・探索および健康影響評価

EXTENDへの貢献と、エコチル調査との連携

メンバー

久保 拓也
京都府立大学 大学院生命環境科学研究科
教授
中島 大介
国立環境研究所 環境リスク・健康領域
副領域長
山内 一郎
京都大学大学院医学研究科
助教

活動記録

Tadano, A., Watabe, A., Tanigawa, T., K-Yamada, S., Kubo, T. (2004).
Evaluation of fluorous affinity using fluoroalkyl-modified silica gel and selective separation of poly-fluoroalkyl substances in organic solvents, J. Sep. Sci., 47, 24002121. doi.org/10.1002/jssc.202400121

Kubo, T., Yagishita, M., Tanigawa, T., Konishi-Yamada, S., Nakajima, D. (2024).
Enhanced molecular recognition with longer chain crosslinkers in molecularly imprinted polymers for an efficient separation of TR active substances. RSC Advances, 14, 12021-12029. doi.10.1039/d3ra08854e

Yamauchi, I., Hakata, T., Ueda, Y., Sugawa, T., Omagari, R., Teramoto, Y., Nakayama, SF., Nakajima, D., Kubo, T., Inagaki, N. (2023).
TRIAC disrupts cerebral thyroid hormone action via negative feedback and heterogenous distribution among organs. iScience, 26, 107135. doi. 10.1016/j.isci.2023.107135

Yamauchi, I., Hakata, T., Ueda, Y., Sugawa, T., Omagari, R., Teramoto, Y., Nakayama, SF., Nakajima, D., Kubo, T., Inagaki, N. 21st International Congress of Endocrinology (2024) Endocrine-Disrupting Potential of 3,3′,5-Triiodothyroacetic Acid via Cooperation of Negative Feedback and Heterogenous Distribution

 

Yamauchi, I., Kimura, S., Sugawa, T., Hakata, T., Kosugi, D., Okamoto, K., Ueda, Y., Taura, D., Nakajima, D., Kubo, T., Yabe, D. 93rd Annual Meeting of the American Thyroid Association (2024) Comprehensive Evaluation of Thyroid Hormone Action Using Hypothyroid Mice.

 

新福優太,山﨑美穂,鍋島一真,久保拓也,中島大介 (2024) 酵母アッセイおよび質量分析による実環境試料中のTR結合活性の評価と既知活性物質の定量.第3回環境化学物質合同大会

 

山内一郎, 伯田琢郎, 植田洋平, 須川琢, 中山祥嗣, 中島大介, 久保拓也, 稲垣暢也. (2024). 甲状腺ホルモンアナログTRIACによる内分泌かく乱作用の解明. 第97回日本内分泌学会学術総会

 

山内一郎. (2023). 甲状腺学におけるトランスレーショナルリサーチの実践. 第66回日本甲状腺学会学術集会

 

Yamauchi I. (2023). Endocrine-disrupting potential of 3,3′,5-triiodothyroacetic acid (TRIAC). 第66回日本甲状腺学会学術集会

 

Kubo, T., Yamauchi, I., Nakajima, D. 第72回高分子討論会(2023)Fundamental evaluation for rapid screening of environmental and biological samples by receptor-mimic polymer adsorbents.

一般公開シンポジウム「環境中化学物質分析の新たな潮流~あるものを全部見る,悪者だけを選んで診る~」

(主催:京都府立大学 久保拓也、共催:国立環境研究所 中島大介、2024年5月1日、コンベンションホールAP浜松町、観客約80名)

科学新聞(2023年7月28日、第3931号、4頁、「下水処理場排水中のTRIAC 内分泌攪乱作用あり脳のホルモン作用低下 京大がマウスで解明」)

2023年 日本甲状腺学会 七條賞(山内一郎)

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